①相談種別:永住権
②申請種別:技術・人文知識・国際業務から永住者への変更
③状況概要:
イギリス人のガレスと申します。私は日本に「技術・人文知識・国際業務」の在留資格で来日して10年以上継続して住んでおり、現在も給料は年間900万円程度で、過去も同額程度、会社員として暮らしてきました。社会保険や年金の未納もありませんし、在留期間5年を保持しており、交通違反なども一切ありません。
おおよそ、永住者への変更要件を満たしていると思っていたのですが、実は約4年前に、イギリス本国に持っていた不動産を売却し、その売却益が出たので確定申告したところ、それまでの家賃収入を日本で申告していなかったことが発覚しました。結果として、所得税及び延滞税を今年納付した状況です。
④質問:
社会保険や年金の未納が無い場合で、所得税の確定申告が漏れてしまい、所得税の納付が遅れてしまった場合、永住ビザの審査にどの程度の影響が出ますか?過去の経験を踏まえて、アドバイスをお願いします。
回答)
ご相談ありがとうございます。日本に10年以上在留し、社会保険や年金の未納もなく、交通違反もないとのこと、永住ビザ申請に向けて非常に良好な状況ですね。しかし、海外不動産収入の申告漏れと所得税の遅延納付があったとのことで、その影響についてご心配されていることと存じます。
所得税の申告漏れと遅延納付が審査に与える影響
結論から申し上げると、永住ビザの審査において、所得税の申告漏れと遅延納付は、一定の影響を及ぼす可能性があります。 永住許可の要件の一つである「素行が善良であること」および「独立の生計を営むに足りる資産又は技能を有すること」の判断において、納税義務の履行状況は非常に重要な要素となるからです。
- 素行の善良性: 税金の申告義務は、日本で生活する上で国民・居住者が果たすべき基本的な義務の一つです。これを怠ったという事実は、「素行が善良であること」の判断においてマイナスに評価される可能性があります。
- 独立の生計維持能力: 過去の納税状況は、申請者の経済的な信頼性や、将来にわたって安定した生計を維持できる能力を示す重要な指標です。申告漏れや遅延納付があった場合、その信頼性が一時的に損なわれる可能性があります。
- 故意性・悪質性の判断: 審査では、申告漏れが故意によるものか、あるいは単なる過失によるものか、またその経緯や期間、金額の多寡などが考慮されます。今回のように、海外不動産の家賃収入という複雑な事情があり、売却時に自ら申告したことで発覚したという経緯は、悪質性が低いと判断される要素になるかもしれません。
ただし、「法の不知はこれを許さず」とされており、申請人には厳しい判断が下される可能性は高いと思われます。
- 延滞税の納付: 延滞税をきちんと納付していることは、税務当局からの指摘を待つのではなく、自ら是正し、納税義務を果たしたという点で、評価されるべき点です。
また、国外所得について外国の法令で所得税に相当するものが課税される場合、日本およびその外国の双方で二重に所得税が課税されることとなります。
この国際的な二重課税を調整するために、一定額を所得税額から差し引くことができます。これを外国税額控除といいます。この手続きを行うことで事後の対応としては最善の状態を作ることが可能となるでしょう。
具体的な影響の度合い
ご相談のケースでは、以下の点が有利に働く可能性があります。
- 社会保険・年金の未納がない: 公的義務の履行状況全体で見たときに、社会保険や年金はきちんと納付している点は非常に大きなプラスです。
- 交通違反がない: 素行面で他の問題がないことは有利な要素です。
- 自ら確定申告したことで発覚・是正: 税務署からの指摘を待つのではなく、自ら確定申告を行った結果として発覚し、速やかに延滞税を含めて納付したという経緯は、誠実な対応と評価される可能性があります。
- 継続的な安定収入: 現在の給与が900万円程度あり、過去も同額程度で安定している点は、生計維持能力の面で強いアピールポイントです。
しかしながら、納税義務違反があったという事実は厳然たる事実であり、永住ビザ申請において影響は避けられないでしょう。特に、税金に関する事柄は入管が非常に重視する部分です。
対応策とアドバイス
このような状況で永住ビザを申請するにあたっては、以下の点に細心の注意を払い、可能な限りの補強策を講じるべきです。
- 1: 詳細な理由書の作成:
- なぜ過去の家賃収入を申告していなかったのか、その経緯を具体的に説明します。
- 単なる過失であり、故意ではなかったこと、海外の税制と日本の税制の違いを十分に理解していなかったことなどを丁寧に説明します。
- 申告漏れが発覚してからの対応(自ら確定申告、延滞税を含めた全額納付)を明確に記述し、誠実な対応を強調します。
- 今回の件を深く反省し、今後は日本の税法や法令を完全に遵守していくという強い決意を表明します。
- 2: 納税に関する書類の充実:
- 遅延納付した所得税および延滞税の納税証明書(完納を証明するもの)を必ず提出します。
- 申告漏れが発覚する前の過去数年分の納税証明書(所得税、住民税)も併せて提出し、それ以外の期間は適切に納税義務を果たしてきたことを示します。
- 年金や健康保険の納付状況を証明する書類も漏れなく提出し、公的義務全般をきちんと果たしていることをアピールします。
- 3: 会社からの推薦状:
- 勤務先の会社から、あなたの勤務態度、日本での貢献度、今後の継続的な雇用予定などを記載した推薦状を取得することも有効です。会社があなたの誠実な対応を評価していることを示すことで、入管への印象も良くなります。
- 4: 日本人配偶者からのサポート:
- 日本人配偶者がいることは永住申請において有利な要素です。配偶者からも、あなたが日本での生活に真摯に取り組んでいること、今回の件を深く反省していることなどを記した上申書を提出することも検討してください。
- 5: 申請タイミングの検討:
- 納税を終えたばかりの時期に申請するよりも、納税からある程度の期間(数ヶ月~半年程度)が経過し、その間も引き続き安定して生活している実績ができた上で申請する方が、より安定した印象を与える可能性があります。ただし、現在の在留期間の有効期限を考慮し、余裕を持ったスケジュールで進めることが重要です。
- 6: 必要な手続きを実施する:
前述の「外国税額控除」の手続きは是非税理士など専門家に相談することをお勧めいたします。
まとめとアドバイス
今回のケースでは、過去の税務上の過失があったとはいえ、その後の誠実な対応と、社会保険・年金の完納というプラス要素があります。このプラス要素を最大限にアピールし、過去の過失に対する反省と再発防止への強い意志を明確に伝えることが、永住許可を得るための鍵となります。
ご自身での申請も可能ですが、税金に関する問題は入管が非常に厳しく見るポイントです。提出書類の作成、特に理由書や上申書の内容は、審査官の判断に大きな影響を与えます。
ご不安な場合は、ぜひ私たち行政書士のような入管手続きの専門家にご相談ください。あなたの状況を詳細にヒアリングし、最も説得力のある書類作成と申請戦略を共に検討させていただきます。