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日本人配偶者ビザの落とし穴:「低収入+持ち家」と「単身赴任別居」の複雑な審査実態

  • 10月 10 2025
  • FESO

在留資格「日本人の配偶者等」の審査では、「婚姻の真実性」と「経済的安定性」の二つが常に問われます。しかし、申請者の状況が複雑な場合、単純な収入額だけでは判断できない、特殊な「落とし穴」が存在します。

今回は、多くの方が「これなら大丈夫だろう」と考えがちな状況が、実は不許可のリスクを抱えていたという事例を取り上げ、入国管理局(入管)の審査の「深層」を解説します。

 

事例の概要:安心材料が逆に審査を複雑にしたケース

  • 申請者(外国人配偶者): Bさん
  • 配偶者(日本人): Aさん(会社員)
  • ビザ申請状況: 更新申請
  • 家族構成: 夫婦のみ
  • 世帯の経済状況:
    • Aさん(日本人配偶者)の年収: 約250万円(日本の平均より低め)
    • 住宅状況: Aさんの名義で住宅ローンを完済した持ち家がある。
  • 夫婦の同居状況: Aさんの単身赴任により、夫婦は現在1年半の長期別居中。外国人配偶者Bさんは日本で仕事(パート)をしながら、Aさんの帰りを待っている。

申請時の判断

この夫婦は、「収入は低めだが、住宅ローンがなく持ち家があるから経済的には安定している」「別居は仕事のやむを得ない事情だから問題ないだろう」と考え、夫婦で別々に住んでいることを正直に申告して更新申請を行いました。

【結果】 入管から追加資料を求められた後、審査が長期化。最終的に不許可となりました。

 

1. 収入が低いのに「持ち家」があることが生んだ矛盾

この事例で入管がまず疑問を持ったのは、「経済的安定性」の証明における矛盾です。

審査の論理:「生活基盤の証明が不十分」

  • 入管の視点:
    1. 1.年収250万円は最低ライン: 住宅ローンがないとはいえ、年収250万円という水準は、東京などの大都市圏で夫婦二人(将来的な子どもも視野に入れる)が安定した生活を送るにはギリギリ、あるいは最低生活費のラインだと見なされます。
    2. 2.持ち家があるからOKではない: 持ち家は「資産」ですが、入管が重視するのは「現在の安定した収入」です。持ち家があっても、固定資産税、修繕費、光熱費などの継続的な支出があるため、低収入では生活が困窮するリスクが残ると判断されます。
    3. 3.外国人配偶者への疑義: 外国人配偶者Bさんがパート収入を得ていますが、もしBさんのパート収入がなければ、日本人配偶者の年収250万円だけで生活が成り立たないことは明らかです。入管は、「日本人配偶者が自立して家族を扶養できるか」を重視するため、この経済基盤の弱さが不安要素となりました。

【対策】 持ち家という資産は有利ですが、それ以上に「安定した収入が継続していること」が必要です。持ち家がある場合は、固定資産税や光熱費の支払い記録を添付し、「資産があるからこそ、この収入でも十分生活できる」という説得力のある説明を加えるべきでした。

 

2. 「単身赴任の長期別居」が引き起こした致命的な疑念

この事例で不許可の最大の決め手となったのが、「長期別居」という事実です。

審査の論理:「夫婦関係の実態喪失」の疑い

  • 入管の視点:
    1. 1.別居の期間と頻度: 1年半という長期の別居は、一般的な単身赴任としては長すぎるか、あるいは単身赴任というよりも「夫婦関係が冷え込んでいる」状態だと疑われやすくなります。
    2. 2.経済的な協力の証拠不足: 別居しているにもかかわらず、Aさんの収入が低いため、夫婦が本当に「一心同体」となって生活を共にし、経済的に協力している証拠(頻繁な送金記録、一緒に家計を管理している記録など)が不足していたと判断されました。
    3. 3.「低収入なのに別居」の不可解さ: 入管は、「収入が低いなら、家計を助け合うために同居して生活費を節約すべきではないか?」という合理的な疑問を持ちます。低収入で別居を続けている状況は、「夫婦の愛よりも、仕事や個人の都合を優先している=夫婦関係の実態が薄い」と解釈されるリスクがあります。

【対策】 単身赴任などの別居は、必ず以下の証拠と理由書で徹底的に補強する必要があります。

  • 単身赴任の辞令書、期間を明記した会社の書類。
  • 別居期間中の頻繁な交流記録(最低でも月に数回は会っている写真、SNSの通話・メッセージ記録)。
  • 将来の同居計画(いつ、どこで同居を再開するか)。
  • なぜ低収入でも別居が必要なのか、その合理的な理由を明確に説明する。

 

まとめ:安心材料だけに頼らず、「リスクを説明」する戦略を

日本人配偶者ビザの審査は、申請者が持つ「有利な材料」(持ち家、高学歴など)だけを見て許可を出すわけではありません。同時に、「不利な材料」(低収入、長期別居、納税遅延など)が、永住の前提となる「安定した生活の継続性」を脅かしていないかを厳しくチェックします。

この事例から学ぶべき教訓は、以下の2点です。

  1. 1.経済力は「資産」より「収入」と「継続性」: 持ち家があっても、現在の安定した収入が最低限の生活レベルを上回っていることを証明する必要があります。
  2. 2.別居は最大の不安要素: やむを得ない別居であっても、その必要性、期間、そして夫婦間の変わらぬ愛情と経済的協力の証拠を、入管が納得できるように「先回りして」説明することが不可欠です。

ご自身の申請に一つでも不安要素がある場合は、自己判断せず、必ず私たち行政書士のような専門家にご相談ください。不利な要素を正直に伝え、それを補強する説得力のある書類作成を行うことが、ビザ取得への確実な道となります。