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制限なしでも要注意!ビルクリーニング業が陥りがちな「立て続けの多人数採用」の落とし穴

作成者: FESO|Oct 14, 2025 1:03:20 AM

特定技能の在留資格は、人手不足が深刻な分野において外国人材を受け入れるために創設されました。その中で「ビルクリーニング業」は、分野ごとの受け入れ人数に上限(クォータ)が設定されていない業種の一つです。

「人数制限がないなら、必要なだけ一度に採用しても大丈夫だろう」

このように考えている受入れ機関(会社)は多いかもしれませんが、実はここに入国管理局の審査における「隠れた落とし穴」が存在します。人数制限がないからこそ、安易な多人数・連続採用は、入管の審査で「会社の体制」や「事業の安定性」に疑念を持たれるリスクがあるのです。

この記事では、ビルクリーニング業の特定技能受け入れにおける「多人数採用」が審査に与える影響と、それを回避するための戦略を行政書士の視点から解説します。

 

1. 人数制限がない「ビルクリーニング業」の基本と入管の視点

(1) 受け入れ人数に制限がない理由

特定技能制度において、介護や建設業など一部の分野には総数や事業所ごとの受け入れ上限が設けられています。しかし、ビルクリーニング業など上限がない分野は、特に人手不足が深刻で、外国人材による労働力の確保が喫緊の課題であると国が判断しているためです。

(2) 制限がないからこそ問われる「実態」

人数制限がないことは自由度が高い一方で、入管は「制限がないことを悪用していないか」という視点で、より厳しく「会社の事業実態」と「外国人材の育成・管理体制」をチェックします。

 

2. 「立て続けの多人数採用」が引き起こす3つのリスク

特定技能の申請で最も重要なのは、「特定技能外国人が安定して働き続けられる環境が整っているか」です。立て続けに複数人を採用(申請)すると、以下の3つのリスクで入管の心証を悪くする可能性があります。

リスク1:会社の「管理体制のキャパオーバー」を疑われる

  • 問題点: 一度に多くの特定技能外国人を受け入れる場合、入管は「受入れ機関や登録支援機関の管理体制が、その人数に対応できるのか?」という点に疑問を持ちます。
  • 具体的に見られる点:
    • 支援担当者の負担: 支援担当者(特定技能外国人の生活をサポートする人)の人数に対して、外国人材の数が多すぎないか。担当者一人あたりの負荷が高すぎると、「適切な支援ができない」と判断されます。
    • 育成体制: 新しい人材に対して、十分な日本語指導や技能指導を行う体制が整っているか。
    • 受け入れ後の実績: 過去に受け入れた外国人の退職率が高くないか、入管への各種届出を適切に行っているか。

リスク2:事業計画の「安定性・継続性」に疑念を持たれる

  • 問題点: 会社が急に多くの人材を必要としている状況は、「急激な事業拡大に伴う安定性の欠如」や「一時的な繁忙期をしのぐための採用ではないか」という疑念を持たれる可能性があります。
  • 具体的に見られる点:
    • 決算書の確認: 会社の直近の決算書や売上予測を見て、増員に見合うだけの事業規模と安定した収益が見込めるかをチェックされます。
    • 雇用理由の正当性: 「なぜ今、これほど多くの人数を一度に採用しなければならないのか」という理由が、事業計画書や理由書で明確かつ説得力をもって説明されているか。

リスク3:「実習生(旧制度)の代替」や「労働者派遣」と見なされる

  • 問題点: 特定技能制度は、労働力の確保だけでなく、その分野で活躍できる人材の育成も目的としています。あまりにも不自然な数の受け入れや、短期間での退職が続くと、技能実習制度の不適切な利用の代替や、単なる「人貸し」ではないかと警戒されます。
  • 具体的に見られる点: 申請する外国人の職務内容が、単なる付随的な業務ではなく、ビルクリーニングの核となる業務であるか。

 

3. 多人数採用を成功させるための「戦略的アプローチ」

ビルクリーニング業で多人数採用が必要な場合、以下の戦略をもって申請に臨むことで、入管の審査をスムーズに進めることが可能になります。

戦略1:段階的な採用計画と理由の説明

  • 一度に申請しない: 複数人の採用が必要な場合でも、できれば数人ずつ、段階的に申請することをおすすめします。
  • 明確な理由書: なぜこのタイミングでこの人数が必要なのか(例:「大型契約を獲得した」「既存の契約が大幅に増加した」「退職者が相次いだため」など)を、契約書や業務量を示す客観的な資料を添付して詳細に説明します。

戦略2:充実した管理・支援体制の証明

  • 支援担当者の増員: 採用人数が増える分、特定技能外国人をサポートする支援担当者も増員し、適切な比率(担当者1人あたりの外国人数の上限)を維持していることを示します。
  • 支援計画の具体性: 支援計画書に、日本語教育や生活相談、地域との交流サポートについて、人数が増えても質が落ちない具体的な方法を記述します。
  • 宿泊施設の確保: 人数に見合った、適切な広さと環境の宿泊施設を確保していることを証明します。

戦略3:会社の安定性と成長性をアピール

  • 直近の決算書の補足: 業績が急上昇している場合は、その具体的な要因(新しい技術の導入、契約先の増加など)を説明し、増員が事業の成長に不可欠であることを強調しましょう。
  • 日本人従業員とのバランス: 日本人従業員との比率も重要です。外国人ばかりに頼っている体制ではないことを示す資料を提出しましょう。

 

まとめ:制限がなくても「計画性」と「誠実性」が重要

ビルクリーニング業は特定技能の受け入れ人数に上限はありませんが、それは「無計画な大量採用が許される」という意味ではありません。

入管が本当に見ているのは、「あなたの会社が、一人の外国人材を日本社会の一員として、責任をもって受け入れ、育成し、安定して雇用し続けられる体制と意思があるか」という点です。

多人数採用が必要な場合でも、この「計画性」と「誠実性」を入管に強くアピールできるよう、書類の準備と体制の構築を慎重に進めましょう。もし、多人数での申請や、審査の進め方にご不安がある場合は、ぜひ私たち行政書士にご相談ください。あなたの会社の安定的な人材確保を全力でサポートさせていただきます。